投資を始めようかどうしよう、または始めたけど何を購入しよう、というタイミングで必ず立ち塞がるのが「リスク」ではないでしょうか。
「リスク」すなわち『危険』、『怖いもの』、『損をする』というイメージが膨らみ、一歩を踏み出せず、立ち止まってしまいます。
ですがこの「リスク」、投資の世界では少しニュアンスが違います。
投資の世界で言う「リスク」とは、購入した商品の「将来の不確実な価格の振れ幅」を指します。
なのでよく聞くハイリスクハイリターンとは、『価格の振れ幅が大きい』商品ということになります。
不動産投資では「空室リスク」というように、「リスク」=「振れ幅」でない投資もあります。
また「リスク許容度」という言葉があり、これは「どれくらいまでの損失を受け入れられるか」を示すものです。
これらの「リスク」や「リスク許容度」の扱い方を理解することで、今後の損益に変化が生まれるかもしれません。
このリスクやリスク許容度について具体的にみていきましょう。
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リスク=価格の振れ幅の大きさ
リスクとリターンの関係性
まずは下のグラフを見て下さい。
Aの赤線は年率の平均リターンを示し、Bの青線は価格の値動きを表したものです。
価格はBのように上下に動きながらも、Aの直線上の平均リターン10%を得たことを示します。
この直線Aからのズレ±15%が「リスク」(振れ幅30%)となります。
『振れ幅』である30%や、リスク15%(=標準偏差±15%)などで表現されます。
たとえばハイリスクハイリターンの商品とは、『ハイリスク』=振れ幅が大きく、『ハイリターン』=直線Aの角度が大きい(リターンが大きくなる)ものです。
ローリスクローリターンはその逆で、振れ幅が小さく、直線Aの傾斜もゆるやかで水平に近づいてきます。
すなわち利益が小さくなります。
一般に金融商品はリスクが大きければリターンが大きく、リスクが小さければリターンが小さくなります。
では皆さん、もしAのように直線的に動く商品があったとしたら、AとBのどちらの商品を選ぶでしょうか。
もちろん『A』!
Aの商品を選んでおけば、安心して仕事に集中できますし、夜も気にせず ぐっすり眠ることができます。
ただAのような商品とは、値動きがあるBの(振れ幅が小さい)=(リターンが少ない)というもので、定期預金などのローリスクローリターンの商品がそれに当てはまります。
また(振れ幅を少し小さくする)=(リスクを減らす)のであれば、分散投資が有効な手段となります。
実際の商品で確認
1994から2019年までのリスクとリターンの関係をまとめたグラフが以下です。
横軸にリスク(標準偏差)、縦軸に年率リターンを示しています。
年率リターン(%) | リスク(%) (標準偏差) | |
S&P500 | 9.7 | 14.4 |
新興国株 | 6.2 | 22.6 |
短期国債 | 3.6 | 1.9 |
長期国債 | 6.8 | 10.2 |
REIT(不動産) | 9.6 | 18.9 |
ゴールド | 5.1 | 15.6 |
S&P500を例に見ると年率リターン9.7%、リスク14.4%となっています。
ここで示す『年率リターン』とは、25年間ずっと年平均9.7%で資産が増えたことを示します。
一方『リスク(標準偏差)』は、年率リターン9.7%を基準にどれくらいの範囲でばらつくかを示すもので、振れ幅28.8(+側に14.4%、-側に14.4%)の中で変動することを示します。
過去25年間のデータを元に、S&P500の1年経過後の値動きを統計的に予測すると、
1年後の予測リターン範囲
(下限値)9.7-14.4= -4.7%
(上限値)9.7+14.4= 24.1%
これを表で示すと、値動きは-4.7~24.1%内(分布68.3%の場合)に収まります。
ここで分布とは、下の図のように平均 (μ)からプラスマイナスに振れた範囲に、全体のうちのどれだけのデータ数があるかを面積で示します。
平均 (μ)からの振れ幅が標準偏差: ±σ(ここではσ=14.4)の場合、統計学的にはこの範囲内に全体の68.3%のデータが分布しています(薄い緑色の面積)。(±2σなら分布約95.4%、±3σなら分布約99.7%)
標準偏差についてもう少し詳しく知りたい方は、SUSTEN LAB.さんの『標準偏差とリスク』を参考にしてみて下さい。
一般にS&P500指数のインデックス投資信託という商品(リスク14.4%)は、ミドルリスク・ミドルリターンに属すると言われています。
ちなみに、かつての大暴落であるリーマンショックでは、S&P500が56%も下落したと言われています。
正規分布でいうと99.7%には入らない、非常に稀な0.3%の事象であったことになりますが、実際そのような暴落はそこそこ発生しており、正規分布とは一致しません。
正規分布の特性上、平均値から遠く離れた値に対しては精度がよくないのです。
ただITバブル崩壊やリーマンショックなど、それらの暴落を踏まえてもS&P500の年率リターンは9.7%であったというのは事実です。
リスク許容度
リスク許容度とは、『投資した元本に対して大きな損失が出てしまった場合に、どの程度まで損失を受け入れられるか』を示す指標です。
多くの人はリターン(利益)の許容度には寛大ですが、損失に対しては過敏で、許容度にも限界があります。
利益ならいくらでもWelcome!
許容度は無限大~
許容度は個人の資産状況や生活環境によっても変わってきます。
またこの許容度によって、どの金融商品を選ぶかも変わります。
例えば余裕資金100万円で金融商品を購入し、20万円までの損失に耐えれるのであれば、リスク許容度が20%(振れ幅は2倍の40%)以内の商品を選べば良いことになります。
逆にこの耐久損失額(こんな言葉はありませんが)20万円から考えると、先のS&P500であればリスク14.4%なので、
【分布68.3%の場合】
20万円 ÷ 14.4% ≒ 139万円
【分布95.4%の場合】
20万円 ÷ (14.4% ✕ 2) ≒ 69万円
【分布99.7%の場合】
20万円 ÷ (14.4% ✕ 3) ≒ 46万円
緩い確率であれば資金139万円、手堅い確率であれば46万円まで購入しても我慢できるという結果になります。
結局、リスク許容度とは損失額です。
右肩上がりの金融商品を購入する場合、許容できる損失額が多ければ多いほど、購入金額も上がり、結果としてその分リターンが増える可能性が高くなります。
リスクとどう付き合う
振れ幅でドキドキ?
今まで説明してきましたが、リスクとは「怖いもの」ではなく「将来の不確実な価格の振れ幅」を指します。
確かにマイナス側に振れれば振れるほど損失が膨らみ、不安になってしまいます。
そういう意味では「怖いもの」です。
ただ先に例で挙げた年率リターン9.7%のインデックス投資信託を一括で購入し、その後10年間ほったらかしにして、10年後に初めて確認したとしたらどうでしょう。
その間の振れ幅なんて知りませんので、ただ10年後に年率10%近くで資産が増えて、資産が約2.5倍になっているという結果だけです。
振れ幅を気にせず、ほったらかしにしておけば直線Aの商品の出来上がりです。
必ず晴れるときがくる
金融商品は基本、上下動を繰返しながら価格が変動します。
暴落↓もすれば暴騰↑するときもありますが、暴落で資産が大幅に減ると慌てふためいてしまいます。
ただよく考えれば分かるのですが『上下動を繰り返す』ので、大きく下がっても次第に上がっていきます。
ずっと暴落していることなんてありません。
もしそのようにずっと暴落している商品がもしあれば、それは商品自体に問題があります。
また、よく暴落時は不安になり衝動的に売ってしまうことがありますが、暴落時は逆に安売りなので買うべきタイミングです。
そんなこと言ったって、
怖くて買えないよ
断言しますが、
私も買う自信はありません。”悲”
暴落時は余程の経験者でなければ買えないでしょう。
であれば売らないことです。長期で運用すれば平均リターンで増えていくのですから。
平均リターンとは、リスクを受け入れた人のみが得られるリターンなのです。
まとめ
価格が大きく下がっても必ず上がってくるんだから、ハイリスクハイリターンの商品を買いましょう!と言っている訳ではありません。
投資を学んで積極的に売買したい方は、この記事を参考程度にしてください。
優秀な商品を選ぶ
まず大事なのは、優秀な金融商品を選ぶことです。
価格が下がり続ける商品や下がっても上がってこない商品では、どうやっても利益を得られません。
ただ未来を予想することもできません。
なので基本は過去のデータを参考にします。気を付けたいのはそのデータ量です。
5年間しかデータの無い商品より、50年間のデータがある商品の方が信頼度が増します。
なおインデックス投資信託の場合は、ネットでもYoutubeでも情報がたくさんあり、人気商品はほぼ絞られていますので、それらを参考にすれば比較的簡単に選ぶことができます。
優秀な商品の中から、自分に合ったリスクやリターンを選びましょう。
リスク許容度を明確にする
先にも説明しましたがリスクは「振れ幅」です。
ただリスクだけで商品を選ぶのはちょっと早過ぎで、自分の『リスク許容度』を明確にした上で、選ぶ必要があります。
またリスク許容度によって、リターンも大きく変わってきます。
余裕資金と今後の目標をはっきりさせ、リスク許容度を設定しましょう。
リスクは負うもの
リスクは避けるより、受け止めることをおススメします。
投資の理想は、最安値の商品を上がり始めるたところで買って、最高値を過ぎて下がり始めたところで売るです。
ただこんなことは凡人にはできません。
ならばリスクを受け止め、平均リターンを取る方が効率的です。
仕事でもそうですが、特にサラリーマンの方はどんな天候であろうが出勤して働きます。
雨なのに出勤しろと言われたから会社を辞めて、晴れたら次の会社を探すなんてことはしないと思います。
更に雪が降ろうが嵐が来ようが出勤して働き、収入を得ます。
投資でも、ちょっと下がったから怖くなって売ると、次に買おうとしてもタイミングを逃し、利益を得られません。
ある程度のリスクを負う、その結果として、リターンという対価が得られます。
またリスク許容度が増えればリターンも大きくなります。
繰り返しですが、その商品の平均リターンとは、そのリスクを受け入れた人のみが得られるリターンです。
投資を怖れるのではなく、自分に見合ったリスクを負うことで、そのご褒美としてリターンを受け取りましょう。
そう考えれば途中の振れ幅なんて、ワクワクしながら楽しめるかもしれません。