2024年から始まった新NISA制度により、多くの投資家が米国株式市場への投資を検討しています。
特にS&P500などの米国株インデックスへの投資は人気を集めていますが、投資を始める際に重要となるのが「円建て」か「ドル建て」かの選択です。
円建て?ドル建て?
何となく聞いたことあるけど。
円建ては日本円で購入、ドル建てはドルで購入することです。
ドルを含む海外通貨を表現する場合
外貨建て(がいかだて)と言います。
ドル建て投資は、為替手続きの手間や言語の壁から敬遠されがちですが、実際には想像以上にメリットがあり、手続きも簡単です。
例えば、円安やインフレへの対策として有効であり、グローバルな資産分散の観点からも注目されています。
本記事では、米国ETF(上場投資信託)を中心に、ドル建て投資のメリットとデメリット、始め方のポイントを詳しく解説します。
個別株投資にも応用できる内容となっていますので、米国市場への投資をお考えの方は、ぜひ参考にしてください。
「ドル建て」と「円建て」とは
投資を始める前に、まずドル建て投資と円建て投資の基本的な違いを理解しましょう。
ドル建て投資とは、米ドルで直接取引を行う投資方法です。例えば、米国ETFをニューヨーク証券取引所で購入する場合、日本円をドルに換金してから取引を行います。これにより、為替の変動による影響を直接受けることになります。
一方、円建て投資は、日本の証券会社が提供する投資信託などを通じて、日本円のまま米国市場に投資する方法です。
為替変動の影響は受けますが、投資家が直接ドルを扱う必要はありません。
主な違いを具体的に見てみましょう:
取引通貨
- ドル建て:米ドルでの取引(為替手続きが必要)
- 円建て:日本円での取引(為替手続き不要)
購入できる商品
- ドル建て:米国ETFや個別株など、米国市場の商品を直接購入可能
- 円建て:投資信託を通じた間接的な海外投資が中心
取引時間
- ドル建て:米国市場の取引時間に準拠(日本時間深夜)
- 円建て:日本の取引時間内で取引可能
コスト構造
- ドル建て:為替手数料は発生するが、商品の運用コストは一般的に低め
- 円建て:為替手数料は不要だが、運用管理費用が比較的高めの傾向
次章では、なぜ今ドル建て投資が注目されているのか、具体的なメリットを見ていきます。
なぜドル建て米国株が注目?
- 円安・インフレ時代の資産防衛策
- グローバル分散投資でリスク低減
- 米国ETF・投資信託の豊富な商品性
- 充実した日本語の投資情報
- 米国市場の夜間取引メリット
- オンラインで簡単購入
- 為替手数料の低コスト化
- 余剰資金の活用:米国MMFのすすめ
円安・インフレ時代の資産防衛策
近年、日本経済において「円安」と「インフレ」が大きな課題となっています。ドル建て投資がこれらのリスクに対する有効な対策として注目される理由を解説します。
為替とは、異なる通貨間の交換を指します。例えば、1ドル=150円といった交換比率を「為替レート」と呼びます。
円高とはドルに対して円の価値が上がること(例:1ドル=100円)、円安はその逆(例:1ドル=150円)を意味します。
多くの方が「海外に行かないから為替は関係ない」と考えがちですが、実はそうではありません。日本で販売される商品の多くが輸入品であり、円安は私たちの生活に直接影響を与えます。
さらに近年問題となっているのが「インフレ」です。インフレとは物価が上昇する現象で、お金の実質的な価値が低下することを意味します。
注目すべき点は、インフレ率は国によって大きく異なることです。
例えば、以下のような状況が発生する可能性があります:
- 米国でインフレが進行(物価上昇)
- 同時に円安が進行(円の価値下落)
- 結果として、日本国内での米国製品の価格が「物価上昇」と「為替の影響」により二重に上昇
このような状況下での資産防衛策として、ドル建て投資が有効です。特にドル建てのETFや株式に投資することで、円安の影響を逆に資産の増加につなげられ、米国市場のリターンを直接享受できます。
また、インフレに強い実物資産(株式)への投資となるメリットもあります。ただし、単純にドルの現金として保有するだけでは、米国のインフレによる目減りを避けられません。
そのため、ドル建ての投資商品(特に株式やETF)を保有することが、為替リスクとインフレリスクの両方に対する効果的な防衛策となります。
グローバル分散投資でリスク低減
投資において「卵は一つのカゴに盛るな」という格言がありますが、これは通貨の選択においても重要な考え方です。
円建てとドル建ての商品をバランスよく保有することで、為替変動のリスクを効果的に抑えることができます。
円建てで米国の投資商品を購入する場合、日本株投資では考慮する必要のなかった為替リスクが発生します。
例えば、円安の場合、すでに保有している米国商品は為替差益の恩恵を受けますが、新規購入時には割高になってしまいます。
反対に円高の場合は、保有商品の評価額は下がりますが、新規購入は割安になります。
このように、円建ての商品だけを保有していると、円安や円高が長期化した場合に大きな損失を被るリスクがあります。
しかし、円建てとドル建ての商品をともに保有することで、以下のようなメリットが得られます:
- 為替変動の影響を相互に打ち消し合える
- 投資商品本来の値上がり益を享受しやすくなる
- 通貨分散による投資リスクの軽減
ただし、円建てとドル建ての資産配分(ポートフォリオ)をどのような割合にするかは、投資家個人の状況や目的によって異なります。
長期的な資産形成を目指す場合は、徐々に調整しながら最適なバランスを見つけていくことが重要です。
米国ETF・投資信託の豊富な商品性
米国市場の投資商品は、その数と種類において日本市場を大きく上回ります。
日本の証券会社で購入できる海外投資商品は、実は世界の市場規模からみるとごく一部に過ぎません。
米国市場の投資商品の特徴は以下の通りです。
1.圧倒的な商品数
- ETFだけでも数千種類以上(日本では数百銘柄)
- セクター別、テーマ別など、細分化された商品が豊富
- 新興の投資テーマにも素早く対応した商品が登場
2.多様な投資戦略
- 従来型のインデックス投資
- スマートベータ戦略(アクティブとインデックス運用のイイとこ取り)
- ESG投資など、新しい投資手法にも対応
3.運用実績と透明性
- 長期の運用実績があり、パフォーマンスの検証が容易
- 運用報告が充実しており、投資判断に必要な情報が入手しやすい
このように、米国市場では投資家のニーズに合わせて幅広い選択肢が用意されています。
自分の投資方針や目標に最適な商品を見つけやすい環境が整っているのが、大きな特徴といえます。
充実した日本語の投資情報
かつては英語の壁が、米国市場への投資を躊躇する大きな要因でした。
しかし、近年のデジタル技術の発展とグローバル化により、日本語での情報収集が格段に容易になっています。
情報収集手段の進化は以下の点で顕著です。
1.オンラインメディアの充実
- 投資専門のYouTubeチャンネルによる詳細な解説
- 投資家向けブログやニュースサイトでの情報提供
- SNSでの最新情報のリアルタイム共有
2.翻訳テクノロジーの進歩メディアの充実
- スマートフォンの翻訳機能による即時翻訳
- ブラウザの自動翻訳機能の精度向上
- 投資専門用語にも対応した翻訳ツールの普及
3.日本の証券会社のサポート体制
- 米国ETFや株式の日本語解説の充実
- 取引プラットフォームの日本語対応
- 投資教育コンテンツの提供
このように、英語力に不安があっても、必要な投資情報を日本語で十分に入手できる環境が整っています。
以前は大きな障壁だった言語の問題は、もはや米国市場への投資を躊躇する理由とはならなくなってきています。
日本では夜間に取引が可能
日本の証券取引所は平日の午前9時から午後15時までが取引時間ですが、この時間帯は多くの人が仕事中であり、株価の動きを確認したり取引したりすることが難しい状況です。
一方、米国市場は日本時間で以下の時間帯に取引が行われます。
- 夏時間:22:30~翌朝5:00
- 冬時間:22:30~翌朝6:00
この時間差がもたらす主なメリットは以下の通りです。
1.仕事後の取引が可能
- 帰宅後にゆっくりと相場を確認できる
- 金曜の深夜など、休前日に余裕を持って取引できる
- 落ち着いた環境で投資判断が可能
眠くて見てられない~
ある意味、そんな方にぴったり!
2.心理的な負担の軽減
- 寝ている間に取引が完了
- 日中の値動きにとらわれすぎない
- 朝起きてから結果を確認できる
3.時差を活用した投資戦略
- 米国の経済指標発表後の反応を確認してから取引可能
- 日本市場の動きを参考にした投資判断が可能
- グローバルな市場動向を踏まえた取引が可能
このように、一見デメリットに思える時差が、実は効率的な投資活動を可能にする利点となっています。
仕事や日常生活と投資活動の両立がしやすい環境といえるでしょう。
オンラインで簡単購入
でも海外の商品ってどうやって買うの?
難しそうで分かんない~
既に証券口座を持っていれば、
さらに簡単にできます!
米国株式やETFの購入は、多くの方が想像するほど複雑ではありません。
基本的な手順は日本株の購入とほぼ同じで、オンラインで完結します。
購入の基本的な流れは以下の通りです。
1.取引口座の準備
- 証券会社で外国株式取引口座を開設(簡単開設)
- 必要書類の提出はオンラインで完了
- 既存の証券口座があれば追加で申請するだけ
2.実際の取引手順
- 商品名や銘柄コードで検索
- 購入数量を決定(1株から購入可能)
- 注文方法(成行・指値)を選択
- 注文を確定
3.決済時の注意点
- 決済方法で「外貨」か「円貨」を選択
- 既にドルを保有している場合は「外貨」決済を選択
- 円貨決済を選択すると為替手数料が発生
特筆すべきは、取引画面が完全に日本語対応していることです。
ETFの略称(ティッカーシンボル)以外は全て日本語で表示されるため、英語力を気にする必要はありません。
また、スマートフォンのアプリでも取引が可能で、時間や場所を問わず注文を出せる利便性も備えています。
為替手数料の低コスト化
海外投資において、為替取引の手数料は無視できないコストの一つでしたが、近年の証券会社間の競争により、大きな変化が起きています。
1.一般的な為替取引コスト
- 銀行での換金手数料:約0.5円/ドル
- 投資額が大きくなると手数料も比例して増加
- 売買の度に発生する両替コスト
2.証券会社の新たな取り組み
- SBI証券と楽天証券による為替取引手数料の無料化
- 円からドル、ドルから円のどちらの取引も無料
- 最低取引単位は10ドルから
3.利用時の注意点
- 商品購入前に事前の円→ドル換金が必要
- 取引タイミングの計画性が重要
- 為替レートの変動には別途注意が必要
このような手数料の低コスト化が進んでいます。
以前は大きな障壁となっていた為替取引のコストを気にせず、より柔軟な投資戦略を立てることが可能です。
特に、長期投資や積立投資を行う投資家にとって、この手数料削減の恩恵は大きいといえます。
余剰資金の活用:米国MMFのすすめ
米国株式やETFへの投資を始めると必ず発生する「余ったドル」の活用方法として、外貨建てMMF(マネー・マーケット・ファンド)が注目されています。
この投資商品は、高格付けの米ドル建て短期証券に投資する投資信託です。
MMFの主な特徴と活用法は以下の通りです。
1.余剰ドルの効率的な運用
- 最低10ドルから投資可能
- 株式購入後の端数資金を活用
- 配当金の一時的な運用先として最適
2.高い流動性と利便性
- 必要な時にすぐ現金化が可能
- 株式購入資金として即時利用可能
- 入出金の手続きが簡単
3.魅力的な運用利回り
- 2024年時点で年利4%以上の高金利
- 米国銀行預金と比較して有利な運用が可能
- インフレ対策としても機能
このように、外貨建てMMFは単なる余剰資金の保管先としてだけでなく、効率的な資産運用の手段としても活用できます。
特に、米国株式投資を行う際の「待機資金」の運用先として、重要な役割を果たすことが期待できます。
もっと知りたい方は、以下のサイトで詳しく解説されています。
米国株の注意点・デメリット
- 知っておきたい外国税と二重課税対策
- 高額な米国ETFの購入単価と対処法
- 為替リスクへの備え方
外国税による二重課税
米国株式投資において、税金の取り扱いは日本株とは異なる点があり、特に配当金に関する課税には注意が必要です。
1.基本的な課税の仕組み
- 投資利益への課税:日本株と同様に20.315%
- 配当金への課税:米国で10%、日本で20.315%の二重課税
- 売却益への課税:日本国内での課税のみ
2.二重課税への対策
- 外国税額控除制度の利用が可能
- 米国での徴収分を日本の税金から控除
- 確定申告が必要
- 申告期限は翌年の3月15日まで
3.実務上の留意点
- 長期保有戦略の場合は影響が限定的
- 配当金が少額の場合は確定申告の手間と効果を比較検討
- 証券会社から年間取引報告書が送付される
- 各種控除に必要な書類の準備が重要
このように、税金面での複雑さはありますが、投資戦略や金額に応じて対応を検討することができます。
特に長期投資を目指す場合は、初期段階での税金に関する理解を深めておくことで、将来の確定申告もスムーズに行えるようになります。
高額な米国ETFの購入単価と対処法
米国ETFや株式への投資で最初の障壁となるのが、高額な購入単価です。
日本の投資信託と比べて投資開始のハードルが高く感じられる要因を分析し、その対処法を説明します。
1.購入単位の違い
- 国内投資信託:100円から購入可能
- 米国株・ETF:1株単位での購入が必要
- 人気ETFは1株あたり数百ドルのものも多数
2.投資金額の目安
- S&P500連動ETF:1株300ドル以上
- NASDAQ100連動ETF:1株400ドル以上
3.効果的な資金準備の方法
- 為替手数料ゼロの証券会社を活用
- 外貨建てMMFで資金を積み立て
- 目標額に達するまで金利収入を獲得
このように、高額な購入単価に課題があります。
ただ外貨MMFを活用した計画的な資金準備により、効率的に投資を開始することができます。
また投資初心者の方は、MMFで金利を受取りながら資金積立期間に投資知識を高めるという活用方法もあります。
為替リスクへの備え方
為替相場の変動は、ドル建て投資において避けられないリスク要因です。
しかし、適切な投資戦略と理解により、このリスクを効果的に管理することができます。
1.基本的な為替リスクの理解
- 円安:保有する米国資産の円換算額が増加
- 円高:保有する米国資産の円換算額が減少
- 為替変動は短期的に激しく変動
株式が上昇しても円高(ドル安)により円換算額で資産が減少したり、その逆で円安で資産が増加することがあります。
2.リスク管理の具体策
- 定期的な積立投資による平均取得単価の平準化
- 円建て商品とドル建て商品のバランス調整
- 投資期間を長期に設定し、短期的な変動に対応
- 急激な為替変動時の投資を避ける
3.長期投資家向けの戦略
- 円高時の積極的な投資検討
- 定期的なポートフォリオの見直し
- 投資目的に応じた為替ヘッジの検討
このように、為替リスクは完全に回避することはできません。
しかし適切な投資戦略と心構えにより、リスクを軽減しながら米国市場の成長を享受することが可能です。
特に長期投資の視点で考えれば、為替変動は投資機会を提供する要素としても捉えることができます。
まとめ:ドル建てのポイント
本記事では、ドル建て投資のメリットや注意点について詳しく解説してきました。
ここでドル建て投資を検討すべき重要なポイントを整理します。
1.グローバルな分散投資の実現
- 円とドルの両建てで為替リスクを分散
- 米国市場の成長機会の取り込み
- 世界経済の動向を直接的に反映
2.投資環境の変化への対応
- 日本と米国の金利差への対策
- インフレリスクへの備え
- 世界情勢の変化に対する柔軟な対応
3.投資の始めやすさ
- 手数料の低コスト化
- 日本語での豊富な情報
- オンラインでの簡単な取引
- 夜間取引を活用した柔軟な投資
ただし、以下の点には注意が必要です。
- 為替変動リスクへの理解と対策
- 外国税と二重課税への対応
- 商品の購入単価が比較的高額
ドル建て投資は、グローバルな視点での資産運用を可能にし、より幅広い投資機会を提供します。
特に、日本市場だけでなく、世界経済の動向に関心を持つきっかけにもなります。
未来の不確実性に備える上で、ドル建て投資は効果的な選択肢の一つといえるでしょう。