将来の資産形成の強い味方であるNISA口座。
投資した資金に発生した利益の全てが非課税で受取れる魅力的な制度です。
ただ親のNISA口座を直接、子供に移管することはできません。では、NISA口座を次世代に引き継ぐにはどうすればいいのでしょうか?
本記事では、NISA口座の相続に関するポイントをわかりやすく解説します。贈与税や相続税などの複雑な仕組みが、親から子へお金を渡す場合にどう影響するのかを紐解いていきます。
さらに、政府がNISAを勧める別の狙いにも迫ります。果たして、私たちはNISAをどう活用すべきなのでしょうか?
そしてお金の相続以上に大切なこと。子供たちに本当に残すべきものとは?資産運用と家族の幸せについて、新たな視点をお届けします。
NISA口座を通して見えてくる、お金と家族の関係。その奥深さを、一緒に探って行きましょう。
あなたの資産運用観に新たな光が指すことを期待します。
NISA口座開設の制限
NISAといえば、360万円までの投資枠や非課税などがよく知られています。しかしここでは、意外と話題にならない開設条件や制限について確認してみましょう。
NISA口座:開設は誰でもできるわけではない?
NISA口座は以下の条件を満たせば誰でも簡単に開設することができます。
- 日本に住所を所有している方
- 1月1日時点で18歳以上の成人である方
- 1人につき1口座のみ開設が可能
- 代理人は認められず本人が手続きする
誰でも開設できるといっても、
条件をクリアした人だけです。
子供にNISA口座を開設したいという方へ以下の注意点があります。
- 18歳未満(未成年)はNISA口座を開設できない
- NISAを利用する年の1月1日時点で17歳だと開設できない
- 学生であっても年齢条件を満たしていれば開設可能
- 子供も開設できるジュニアNISAがあるが2023年で終了している
以上のことから、現時点では18歳未満の子供に対してNISA口座は開設できません。
NISA口座:子供に移管できない
将来、自分のNISA口座で運用している資金を、子供名義のNISA口座として移管したいと考える方も少なからずいるのではないでしょうか。
結論から言うと、それはできません。たとえお子さんが18歳を迎えたとしてもです。
なぜダメかというと『1人1口座』というルールもありますが、これには贈与税や相続税といった複雑な税金の問題も絡んできます。
次では、その税制のポイントや子供へ引き継ぐ方法などを、もう少し詳しく解説していきます。
資産を遺すときに注意すべき贈与税と相続税
意外と見落としがちですが、NISA口座を自分以外の他者へ相続や贈与はできません。
先にも述べたように、親のNISA口座を子供のNISA口座として引き継ぐことはできないのです。
なら、どうすれば良いの?
皆さんが納得いく方法ではないかも
しれませんが、次の方法となります。
子供へのNISA口座への相続方法
NISAで運用した資産を子供のNISA口座に引き渡したい場合の手順は次の通りです。
- 自分のNISA口座の商品を売却する
- 子供(18歳以上)のNISA口座を開設する
- 子供のNISA口座に入金する
えっ?ただ売って、
普通に渡すだけ?
そうです。NISAだからといって
特別な方法はありません。
ここでの注意点は、NISA口座であるため売却時に税金はかかりませんが、子供のNISA口座に入金する場合には税金が掛かる可能性があるということです。
このときに発生するのが贈与税です。
贈与税とは
贈与税とは、相続税の課税回避を目的とした生前贈与を防止するための税金制度です。
私にはあまり関係のない事と思われがちですが、意外と関わる可能性がある身近な制度です。
そのしくみとは次のようなものです。
- 年間の贈与の合計額が110万円を超えた場合、超えた金額に税率がかかる。
- 配偶者や子供でも関係なく課税される。
- 税金は受け取った人がはらう
- 1人当たり110万円以下であれば何人に贈与しても贈与税はかからない
おじいちゃん、おばあちゃんが孫へ贈与する場合も、家族へ贈与する場合も110万円を超える分には贈与税がかかるということです。
ただし以下については贈与税がかかりません。
- 生活費や教育費として配偶者や子供の口座に入金する場合
- 夫婦の貯蓄としてどちらか一方の口座に入金する場合
親元を離れ学校に通う学生さんなどに、生活費や教育費を仕送りする場合には贈与税はかかりません。
ただし必要な都度、仕送りを行う必要があり、1年間分をまとめて渡すと贈与税が課税される可能性があります。
1年間に110万円以下の贈与であれば贈与税がかからないということですが、これにも注意点があります。
子供名義の口座でも親が管理する「名義預金」であれば課税の対象となる
どういうことかというと、次のようなケースです。
- 親が子供名義の口座を開設する
- 親からその口座に毎年110万円を数年間入金する
- 子供がその名義の口座を管理していない(通帳や印鑑を利用した実績がない)
年間110万円以下で贈与税がかからないように贈与したつもりでも、口座名義の人ではなく贈与者が管理していれば、贈与者のお金とみなされます。つまり子供のお金とはなっていません。
この状況でもし贈与者(親)が死亡した場合、子供のお金として認められず、110万円 ✕ 10年間のお金は相続税の対象になってしまいます。
相続税とは
贈与税は生前のお金の引き渡しに関する税金でしたが、相続税は親が亡くなった場合に遺産などを受取る配偶者や子供に課される税金です。
その内容は複雑なためここで詳しく説明しませんが、主な部分を説明すると、
「遺産に係る基礎控除額」というのは、簡単に言うと遺産のうち税金が課されない金額ということです。
たとえば相続を受ける方が、配偶者と子供2人の場合の「遺産に係る基礎控除額」を計算すると、
600万円 ✕ 3人 = 1800万円
さっきの式に当てはめると
3000万円 + 1800万円 = 4800万円
つまり4800万円までは相続税がかかりません。
4800万円を超える金額については、相続税の課税対象となり、超えた金額に対して税率が掛けられ、その税率分を相続税として納税する必要があります。
相続税が課される財産としては次のようなものがあります。
- 財産:土地、建物、株式などの有価証券、預貯金、現金
- みなし相続財産:生命保険金、退職金(控除枠あり)
- 相続時精算課税適用財産:生前に前借りした相続金(最大2500万円)
- 相続開始前3年以内に受けた贈与金
NISAの話に戻して考えると、NISAの運用資産も含めて「遺産に係る基礎控除額」以下であれば、配偶者や子供へ残すお金(遺産)に税金がかからないことになります。
NISAを勧めるお国の狙い
一般的にNISAの目的は、国民が安心して投資を行える環境を促進し、長期的な資産形成を後押しすることで、豊かな生活を送る環境を整え、国内の経済活性化に寄与することです。
たしかにその側面が主体であると思いますが、筆者の個人的な見解として次の狙いがあると考えています
「お金を使わない日本人」に期待した相続税の増収
いままで『タンス預金』として眠っていた資金を投資に回し、増えた資産を使わずじまいで遺産となれば、その分、相続税も増えるという狙いです。
資産が1億円を超える人達をよく『富裕層』と呼びますが、その割合は日本人の100人のうち3人と言われています。
また意外とサラリーマンの富裕層も多く、働いて多くのお金を貯めて、使わずに人生を終えてしまう方が少なからずいるようです。
相続に対する別の視点
相続というものを、少し別の視点から考えてみましたので、今後の参考になれば幸いです。
遺産は最小限→ “貯める”から“使う”へ
遺産が多すぎると相続税で減ってしまうだけでなく、家族間でトラブルになることもあります。
そこで遺産は必要最小限に抑え、若いうちから自分の人生を充実させるために資金を使うことも大切です。
遺すお金は葬式代程度に抑えるという考え方も、一つの選択肢としてあるようです。
子供への資金提供を見直す
子供への資産継承も、遺産として多くを残すだけが選択肢ではありません。子供たちが本当にお金を必要としているタイミングは『今』かもしれません。
家族でよく話し合い、子供たちにとって最適なタイミングでの資金提供を考えることも大切です。
世代をつなぐ資産運用の可能性
相続後の子供世代まで視野に入れると、資産運用はより長期的な視点で考えることができます。
そのため、高齢期でも必ずしも安全性重視の運用にこだわる必要はありません。
長期運用という観点から、株式など収益性の高い投資も選択肢となり、より積極的な資産形成が可能になります。
まとめ
親が運用しているNISA口座を、子供名義の口座には移管できません。
子供に渡すには、次のような方法になります。
- 自分のNISA口座を売却する
- 子供(18歳以上)のNISA口座を開設する
- 子供のNISA口座に入金する
ただし子供に関係なく、自分以外の人にお金を贈与する場合は贈与税が課せられる可能性があります。
また亡くなった場合にも遺産として渡す場合にも相続税が発生する可能性があります。
ただし、それぞれの税金には控除枠が設定されているので、その枠をしっかり理解して運用/相続していけば、税負担を抑えることができます。
これまでの努力で築いた資産を、いかに賢く次世代に引き継いでいくか、みなさんの資産活用の参考にしてみてください。